診断書を提出し、傷病休暇へ
職場に行くことは、もう不可能でした。
精神科の先生に診断書を書いてもらい、郵送で職場に送り、休むことを電話で伝えました。
すると、上司から「傷病休暇となるので、給与の7割は支給される」と説明を受けました。
「お金の心配は、ひとまずしなくて済む」
そう思った瞬間、少しだけ肩の力が抜けました。
「これで、ようやくゆっくり休める……」
緊張と不安で張り詰めていた心に、ほんの少しだけ安堵が広がりました。
しかし、傷病休暇を取ったからといって、すぐに気持ちが軽くなるわけではありませんでした。
休暇を取ってからの自宅での生活
職場に行かなくてもよくなったものの、家での生活が急激に変わったわけではありませんでした。
私はストレスの原因を 「仕事のプレッシャーと人間関係」 だと思っていたため、家事や育児には関係ないと考えていました。
しかし、実際には違っていました。
以前なら、家事をするときや子どもの世話をするときに自然と笑顔になれていたのに、今の私は 「まったくの無表情」 だったそうです。
それを見かねて、妻が積極的に家事を引き受けてくれるようになりました。
けれど、「すべてを任せきりにするのは気が引ける」 という気持ちが常にあり、心が落ち着きませんでした。
「育児と家事、さらには私の面倒まで見てもらうのは、とてもできない」
そんな思いが消えず、家の中のことは自分がやらなくては、と強く感じていました。
しかし、実際には何もできず、罪悪感ばかりが募っていきました。
休んでも消えない疲労感と無気力
この頃には、子どもの夜泣きも落ち着き、夜は静かになっていました。
しかし、私の不眠はほとんど変わりませんでした。
布団に入っても、頭の中では考えが止まらず、気づけば朝になっていることもありました。
「仕事を休んだからといって、気持ちが楽になるわけではない」
そう実感したのは、この時期でした。
休んでも消えない疲労感と無気力
「心と体を休めるように」と言われても、具体的にどうすればいいのかわかりませんでした。
ただ、ひどい疲労感は抜けず、何をするにも億劫でなりません。
1日中パジャマのまま過ごし、歯磨きや洗顔すら面倒に感じる。
疲労感はあるのに、なぜか朝日が昇る前に目が覚めてしまい、かといって布団から出る気にはなれず、
妻が起きるころになって、ようやく体を引きずるように布団から抜け出しました。
「おはよう」
妻と子どもに挨拶はするものの、その後、何をしていいのかわからない。
やっとの思いで洗顔をしても、ひげを剃る元気がなく、いつの間にか無精ひげが伸びていました。
朝ごはんを食べる気になれず、ほかの何もする気にならない。
ただテレビの前に座り、画面に何が映っているのかすらわからないまま、ぼんやりと眺めているだけでした。
味のしない食事と、止まる時間
昼になり、妻が作ってくれたご飯を口に運ぶ。
でも、味がしない。
一人前を食べきる前に吐き気がしてしまい、結局、せっかく作ってくれたものを残してしまいました。
申し訳ない気持ちがあるのに、体が受け付けない。
午後になっても、何もできないまま時間が過ぎていきます。
ただ、ぼんやりと時計を眺めながら、「何もできない自分」 を責めることしかできませんでした。
増えていくお酒の量
夕方になり、億劫ながらもやっとの思いで子どもと一緒にお風呂に入り、夜ご飯の時間になります。
このころから、なんとなくお酒を飲むことが増えていきました。
以前は、夜中に子どもの世話をするためお酒を控えていましたし、
残業のある日は、翌日に差し障りがあるため、できるだけ飲まないようにしていました。
しかし、今は違います。
夜中に子どもの世話をすることもほとんどなくなり、1日中家にいるので、二日酔いになっても問題ありません。
「お酒を飲めば、少し気が紛れる。」
「お酒を飲めば、寝付きがよくなる気がする。」
そう思い、つい手を伸ばしてしまいました。
それでも、育児放棄だけはしなかった。
子どもが泣けば、おむつかな?ミルクかな?と気にかけ、最低限の世話は続けていました。
もし、子どもがいなかったら——私は1日中お酒に溺れていたかもしれません。
頭に浮かぶこと
仕事を休んでいても、職場のことが頭から離れませんでした。
「あの月例処理は、きちんとできているだろうか?」
「私の代わりは誰がやっているのだろう?」
「もしも先輩がやっているなら、復帰したときにまたひどく怒られるのでは?」
あの先輩と顔を合わせることを考えると、冷や汗が止まりませんでした。
そして、ある考えが、習慣のように浮かぶようになりました。
「こんな思いをするくらいなら、消えてしまいたい。」
「いっそのこと死んでしまったほうがいいのではないか?」
妻にも負担をかけていることが申し訳なく、生きていること自体が悪いことのように感じてしまう。
「生きている意味がわからない。」
そんなことばかりが頭に浮かび、心を休めようとしても、まったく休まりませんでした。
何をしても虚しく感じ、気持ちが麻痺していきました。
笑顔はおろか、涙すら出なくなっていったのです。
妻の言葉がくれた「生きる意味」
そんな気持ちを、ある日、思い切って妻に打ち明けました。
すると、妻は私をじっと見つめ、ゆっくりとこう言いました。
「〇〇(子どもの名前)ちゃんに会えなくなってもいいの?」
「お父さんのいない子にしてもいいの?」
私が何も言えずにいると、さらに続けました。
「お父さんは、いるだけでいいんだよ。」
「生きて、そばにいてくれるだけでいいんだよ。」
その言葉を聞いた瞬間、張りつめていたものが崩れました。
涙が溢れて止まりませんでした。
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