目が覚めた。ここはどこだろう?
ぼんやりとした意識の中、周囲のざわめきが耳に入ってきました。
誰かが私の名前を呼んでいます。「返事をしなきゃ」と思うものの、体がうまく動きません。
「そうだ……手術を受けたんだ」と思い出したのは、その直後でした。
気がつくとベッドが動き出し、看護師さんの声が聞こえました。
「大きく息をしてくださいね」
言われるままに深呼吸をしているうちに、ベッドはリカバリー室(回復室)へと運ばれていきました。
「手術は無事に終わりましたよ。もう少ししたら奥さまもいらっしゃいます」と看護師さんがやさしく告げてくれます。
まだ頭がぼーっとしているものの、言葉の意味はしっかりと理解できていました。
ただ、なんとなく右足が痛い……でも、それも「きっと手術の影響だろう」と、そのときは軽く考えていました。
違和感の正体は「足首」ではなかった
10分もしないうちに、妻がリカバリー室に入ってきました。
「手術はうまくいったって。良かったね。」
妻の声を聞いて、私はようやく少し安心しました。
「今、何時?」と尋ねると、午後2時を少し過ぎたころとのこと。
手術室に入ってから、3時間弱が経過していました。
「結構かかったんだな……とにかく無事に終わって良かった。ところで、右足がちょっと痛いんだけど」
そう伝えると、妻は布団をめくって右脚を見てくれました。
「足首のところが真っ赤になってるよ。ここが痛いんじゃない?」
指でやさしくさすってくれた場所は、確かにヒリヒリと痛みます。
「あぁ……ここだ。でも、術中に足を牽引(引っ張る)するって言ってたから、そのせいかもね」と話すと、妻は驚いた様子でこう返しました。
「でも、こんなになるまで引っぱるの?」
しばらく足首をマッサージしてもらっていると、なぜか別の場所にも痛みを感じるようになりました。
「ちょっと他の場所も触ってみてくれる?」
妻にお願いして、足首から太ももへと順番にさすってもらいます。
そして妻の手が太もものある一点に触れたとき、思わず声が出ました。
「痛いっ!!」
それは、膝から10センチほど上のあたりで、手術で器具を挿入した場所とは明らかに異なる部位でした。
原因はわからないけれど、触れられるだけで激痛が走ります。
「とりあえず今は何もできないね……」
妻はそう言って、その日は帰宅しました。
眠れぬ夜と、続く謎の痛み
夜になり、お腹の動きが少し戻ってきたようで、ようやく水分摂取の許可が出ました。
手術後で微熱があり、口もカラカラだったため、少しの水がとてもおいしく感じられました。
しかし、右太ももの痛みは依然として消えません。
翌朝までリカバリー室で過ごしましたが、その間ずっと痛みが続いていました。
しばらくすると、主治医の先生がやってきました。
私は真っ先に右太ももの痛みを訴えましたが、先生は軽く受け流すようにこう言っただけでした。
「手術はうまくいきましたよ。」
理由も説明もなく、その話題は流されてしまいました。
✅ 眠れなかったリカバリー室の一晩
その晩は、他の患者さんのうめき声やいびきがひどく、とても眠れる状況ではありませんでした。
しかも自分の足の痛みもあり、ただただ夜が明けるのを待つだけの時間。
朝になって出されたのは「卵がゆ」でしたが、私はおかゆが苦手なので、一口も食べることができませんでした。
しばらくして妻が再び来てくれました。
「昨夜はどうだった?」
「足がずっと痛かったし、周りも騒がしくてまったく寝られなかった」と正直に伝えました。
「大変だったね。でも今日は病室に戻れるから、少しは落ち着くかもね。」
妻はそう言ってくれましたが、私はそれどころではありませんでした。
原因不明の痛みに不安が募る
「でもさ、この太ももの痛みだけは、ほんとなんとかしてほしいんだよね。」
そう妻に話すと、
「先生がまた来たら、もう一度ちゃんと聞いてみたら?」
と返されました。
確かに、手術した部位から離れた場所に痛みがあるというのは、どう考えてもおかしい。
私も「この痛みは普通じゃない」と思い始めていました。
しかし、まさかこの痛みが、その後長く私を苦しめることになるとは……
このときの私は、まだ知る由もなかったのです。
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