新たな命と家族の絆──母の認知症と向き合いながら迎える喜び

遠くを見つめる高齢の日本人女性。思索にふける表情が印象的。 認知症との付き合い方
認知症と向き合いながら、日々を静かに過ごす高齢の母。

思いがけない妊娠の知らせ

在宅ワークをしながら母と生活するようになり、しばらく経ったある日、妻が私にこう告げました。

「赤ちゃんができたかもしれない」

長子が生まれてからすでに8年が経過していました。その間、私は長く続くうつ病と向き合いながら生活しており、新たな子どもを迎えることを考える余裕はありませんでした。

亡くなった父は、二人目の孫の誕生を切望していました。生前、何度も「もう一人、どうだ?」と話していたのですが、そのたびに私は「私の体調がもう少し良くなってから考えるよ」と答えていました。しかし、皮肉にも父が亡くなり、母が認知症と診断され、私が家で過ごす時間が増えたことで、精神的な負担が減り、私のうつの症状は徐々に軽くなっていきました。

そんな折に訪れた、妻の妊娠の可能性。

私はもともと子どもが大好きなので、もし本当ならば、これ以上の喜びはありません。すぐに妻と産婦人科を訪れ、診察を受けました。結果は 「妊娠確定」

「おめでとうございます。来年の春に生まれる予定ですね」

医師からそう告げられたとき、妻と私は思わず顔を見合わせました。私も妻も半ば諦めていたため、驚きとともに喜びがこみ上げてきました。


母への報告と喜びの涙

その夜、私たちは家族そろって母の家を訪れました。

夕食が終わったタイミングで、私は母と長子に向かって伝えました。

「二人目の赤ちゃんができたよ。来年の春、生まれるって!」

長子は驚いた様子で「えっ?」と目を丸くしていました。一方、母は 目に涙を浮かべながら 「おめでとう。よかったね。お父さんにも報告してあげて」と、心から喜んでくれました。

母の言葉を受けて、私と妻は仏壇の前に座り、父に報告しました。

「父さんが欲しがっていた二人目の孫ができたよ。見守っていてね」

父が存命中に間に合わなかったことは心残りでしたが、きっと天国で喜んでくれていることでしょう。


新しい生活と小さな変化

妻は妊娠後もファミレスのパートを続けていましたが、つわりが始まると、食べ物の匂いが気になる ようになり、体調を考えて退職を決意しました。

私たちの家庭では、以前から 家事の多くを私が担当 していたため、妻がつわりで体調が優れないときも、家事の負担を減らすことができました。

また、私は在宅ワークをしながら母の家と自宅を行き来する生活を送っていました。しかし、妻の体調を考えると、必然的に母の家にいる時間は少し減り、子どもも母の家よりも自宅で過ごす時間が増えました。

「お母さん、寂しがるかもしれないな…」

そう思いながらも、これまで通り できるだけ母と話す時間を確保すること を心掛けました。幸いなことに、母の様子は安定しており、日常生活に大きな変化はありませんでした。

経済的には、妻のパート収入がなくなった分、多少の調整が必要になりましたが、家計の大きな負担にはなりませんでした。

「外食を減らす」 という程度の節約で十分対応できたため、特に困ることはありませんでした。


長子の変化と家族の時間

長子は最初に 「赤ちゃんができた」 という話を聞いたとき、驚きの方が大きかったようでした。しかし、日にちが経つにつれ、少しずつ実感が湧いてきたようで、次第に 赤ちゃんの誕生を楽しみにするようになりました

「お腹の赤ちゃんに話しかける」
「まだ小さいお腹を優しくなでる」

そんな姿を見ると、私も妻も微笑ましくなります。

妻はつわりが落ち着いてから、出産が少しでも楽になるように 積極的に散歩をするようになりました。私と長子も時間があるときには一緒に散歩し、家族の時間を今まで以上に大切にしました。

「でも、母は膝が悪く、長時間歩くのは厳しい」

母も一緒に過ごせるように、散歩から帰った後は母の家に立ち寄るようにしました。

「ただいま!今日は○○まで歩いてきたよ」
「そっか、いい運動になったね」

そんな他愛のない会話を交わすことで、母に寂しい思いをさせないよう気をつけました。そのためか、母の精神状態は安定しており、以前のように情緒不安定になることはありませんでした


新たな命と穏やかな日々

妻の妊娠という 家族にとって大きな出来事 を迎え、私たちの生活には少しずつ変化が生まれました。

長子が赤ちゃんの誕生を心待ちにするようになった
妻の体調を考慮しながら、家族全員で支え合う生活にシフト
母の生活リズムは崩さず、できるだけ寂しさを感じさせないよう配慮

母の認知症と向き合いながら、新しい命を迎える準備を進める——そんな 不安と喜びが入り混じった日々 が始まりました。

「この穏やかな生活が、このままずっと続いてくれればいいのに」

そんな願いを胸に、私はこれからの家族の生活を支えていく決意を新たにしました。

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