母の違和感の正体──アルツハイマー型認知症の診断と向き合う日々

病院の診察室の様子。落ち着いた雰囲気の診察室に、デスクや医療機器が配置されている。 認知症との付き合い方
日本の病院の診察室。診察やカウンセリングが行われる静かな空間。

違和感の正体を探る

母の様子が何となくおかしいと感じる出来事が増えてきました。
突然怒りだしたり、昼間に話したことを夜には忘れてしまったりすることがありました。
「もしかしたら、飲んでいる眠剤が合っていないのかもしれない」と考え、母を連れていつも通っている精神科のクリニックへ向かいました。

「まずは私が診察室に入るからね。お母さんは呼ばれたら入ってきて」と伝え、先に診察を受けました。
医師に母の様子を伝えると、先生は少し考え込んでからこう言いました。
「眠剤の影響でそのような症状が出る可能性は低いですね。ちょっと簡単な認知機能の検査をしてみましょうか?」

私は母を診察室へ呼び、いったん退室しました。
数十分後、母が診察室から出てきて「先生が呼んでるよ」と言ったので、再び診察室へ入りました。
先生は私の顔を見て静かに言いました。

「お母さん、少し物忘れがあるようですね。詳しく検査をした方がいいので、紹介状を書きます。物忘れ外来を受診してみてください」

私は母の様子に違和感を感じていましたし、お彼岸の件もあったので、すぐに物忘れ外来の予約を取りました。
物忘れ外来では、まず私が先に診察室へ入り、最近の母の言動について説明しました。
その後、母が呼ばれ、精神科のクリニックと同じ認知機能の検査を受けました。

先生は「もう少し詳しい検査をしましょう。時間がかかるので、トイレなどを済ませておいてください」と言いました。
ここから母の認知症の診断が本格的に進んでいくことになりました。


精密検査で明らかになった現実

母はまず MRI検査 を受けました。
以前、 膝関節の人工関節置換手術 を受けた際に何度かMRI検査も経験していたため、特に抵抗もなくスムーズに終えることができました。

次に 脳血流シンチグラフィー検査 を受けました。
私は初めて聞く検査だったため、どのようなものなのか分かりませんでしたが、脳の血流の状態を調べる検査だと説明を受けました。
母によると、「暗い部屋で目隠しをした状態で検査を受けた」とのことでした。

しばらく待合室で待っていると、母が名前を呼ばれ、私も一緒に診察室へ入りました。
先生がパソコン画面を指しながら説明を始めました。

「画像を見たところ、脳に 委縮 が見られますね。特に 血流の状態 を見ると アルツハイマー型認知症の兆候 があります」

私は頭が真っ白になりました。
母が 認知症——しかも、アルツハイマー型 である可能性が高いと言われたのです。

「この結果をもとに、紹介状を書きます。引き続き、かかりつけの先生に相談して治療を進めてください」

母は説明を受けていましたが、内容を完全には理解していないようでした。
私は先生に質問をしたかったのですが、母の前で聞くのは気が引けました。

病院を後にした私は、ただ一つの疑問に支配されていました。

「母の認知症は、どのくらいのスピードで進行していくのだろう?」アルツハイマーという現実

私は母を連れて、改めていつもの精神科クリニックへ向かいました。
先生に病院からの紹介状を渡すと、先生は一読した後、静かに言いました。

「やっぱりこういう結果になりましたか。ただ、進行はそこまで速くなさそうですね。薬を出しますので、まずは様子を見てみましょう」

そう言って処方されたのは アリセプト でした。
認知症の進行を遅らせる効果が期待される薬 です。

「この薬を飲んだからといって治るわけではないですよね?」
そう聞くと、先生は申し訳なさそうな表情を浮かべながらこう言いました。

「そうですね……。認知症は進行を遅らせることはできても、完全に治すことは難しい病気です。ただ、お母さんの状態ならば、今の段階でしっかり治療を続けることで、日常生活を安定させることができる可能性はあります」

私はなんとも言えない気持ちになりながら、クリニックを後にしました。

帰りの車の中、母が突然こう聞いてきました。

「今日は何のために病院に行ったの?」

私は一瞬、言葉を失いました。
この間も「お墓参りに行こう」と昼間に言っていたのに、夕方には私を怒鳴りつけてきたことがありました。
やはり 記憶が抜け落ちている時間がある のです。

私はどう答えていいかわからず、苦し紛れにこう言いました。
「この前の病院の検査結果を聞きに行ったんだよ。お母さんの眠剤の影響がないか先生に確認してもらったんだよ」

母は「ふーん」と興味なさそうに頷いただけでした。

私は運転をしながら、頭の中がぐるぐると回っていました。
母がアルツハイマーになってしまった。これからどうすればいいのだろう?

薬はもらいましたが、治るわけではない
進行がゆっくりだったとしても、今後 記憶の欠落や感情の起伏 がさらに激しくなるかもしれません。

この先、母はどのように変わっていくのでしょうか。
私は 自分のことよりも、母のことが不安でたまりませんでした


認知症の始まり

母のちょっとした違和感から始まった出来事は、認知症の診断へとつながりました。
アルツハイマー型認知症は 進行を遅らせることはできても、治すことはできない病気 です。

母は今のところ、普通に会話ができるし、日常生活もある程度こなせています。
しかし、記憶の抜け落ちや突発的な怒りは、今後も増えていくかもしれません。

「どこまで自分が支えられるのか?」
「この先、母の記憶が完全に失われる日は来るのか?」

そんな漠然とした不安が、私の胸に重くのしかかっていました。

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